農業教育賞の趣旨と経過報告
和歌山県農業教育賞の意義と小学校における農業教育の実践
小林民憲(和歌山大学教育学部)
和歌山県農業教育賞とその意義
和歌山県農業教育賞は,本年度で11回目を迎える。1987年から和歌山県農業協同組合中央会(JA和歌山中央会)は,小学校第5学年社会科の副読本「わかやまの農林水産業」(現在はビデオ教材にまで発展)を作成し,県下小学校児童に配布している。さらに,1991年には,全国に先駆けて本賞を創設した。これは,「自ら育つ作物・家畜を育てる」農の営みを「自ら育つ子どもを育てる」学校教育の中に取り入れ,子どもの学習に大きな成果をあげている県下の小学校を称え,教員と子どもたちを励ますものである。そして,その優れた農の教育の成果を全県に広げていくこと,また同時に,地域の農業と社会に対し,長期的・間接的ではあるが,資することに大きな意義がある。
応募校の分布と実践の特徴
これまで10回の応募延べ86校は,県下過半数の自治体に所在しているが,紀北地域が52%というアンバランスがあり,学区の地域環境では,農山村地域からの応募が56%で最も多かった。また,学校規模は,6学級以下の小規模校が44%と最も多かった(第1表)。校内の学校園・学級園だけで活動しているのは28%と少なく,多くは校外に近接もしくは隣接した民有地,町有地に農地を求め,学校農園としている(第2表)。校外農園としての借地は,有償,無償にかかわらず地域の人々や自治体・農協の協力の賜物であると同時に,そこで行われている活動に対しても援助・共同・協力関係があり,連携プレーができているところが多くあった。適当な校外農地を得られないと,1人当たりの面積が極めて狭くなり,学習活動も制限されるが,膨大な数のプランターと鉢を活用してカバーしている都市部市街地の学校も見られる。
多くの学校は,自然と農(林水産)業が見える周辺環境条件にあり,地域の特徴を農的活動に多くは有効に活かしていた。また,大規模開発による都市化や,農林業不振による過疎化,地域基幹作目の隆盛と不安など変化しつつある社会環境のもとで,地域の社会・文化環境に応じた農の教育がなされている。内容的には,程度に差はあるものの,多くの学校では地域の自然と農業環境を生かした作目を取り上げており,課外活動,勤労体験学習では,中小規模校ではもちろん大規模校でも児童の縦割り班(異年齢集団)活動が主流で,生活科,理科,社会科,家庭科等での教科学習の教材として,あるいは給食の食材としても収穫物を食べることも教育活動として多面的な教育がなされている。当初は生活科あるいは体験学習,環境学習であったが,ここ2・3年は,総合的学習にシフトしてきている。
受賞校の実践の特徴
受賞校(第3表)に共通して,とくに,最優秀校あるいは優秀校においては,永年の,10年あるいはそれ以上の実績があり,農的活動が児童の学校生活の一部として定着している。また,担当教員の個人的実践に負うところが多いけれども,学校として教育目標を明確にして,したがって校務分掌として組織的に運営体制を確立している。さらに,地域との結合・地域の教育利用も積極的に行われている。いずれも児童・教員とも農園活動を楽しんでいることはいうまでもない。なお,受賞と学校規模や地域環境との関係,また,農地面積・作目などとの関連は,明確には認められなかった。
今後の課題
体験が基になるが,農の教育は総合的なものであって,基礎となる教科学習との関連をもっと深めなければならないし,作物栽培だけでなく,こころの教育の前提となるいのちの教育として直接いのちを感じることができる家畜・家禽飼育に取り組んでほしい。一方,農協等含む地域の協力を得つつも学校が主体性を持って「農による教育」,「農の教育」を教育課程にどのように取り入れ,学校教育のための農業技術を確立し,教科学習と関係付けて内容,技術・技能などを教育として効果的にするかなどが課題となろう。
最優秀賞事例の紹介
和歌山市立福島小学校(第8回,1998年)
かつては近郊野菜産地であった校区には住宅地化で農地は点でしかなく,児童の自然離れ著しいゆえに栽培学習に力を入れている。校内の730m2の広い「福島農園」と学年園において各学年で年間計画をたて,キュウリ,ブロッコリー,ダイコン,ジャガイモ,ホウレンソウなど各種野菜を中心に教科学習として,また勤労生産行事として栽培活動を行っている。給食の生ゴミを活用しての堆肥・有機ぼかし肥料づくりに取り組むなど土作りをはじめている。土(ミミズ)・ごみ学習として,土の中のごみは40日でどうなるかといったクイズをし,正解者には花の苗を配ることも取り入れている。収穫物は,一部は家庭に持ち帰るとともに,給食や教科で活用している。さらに,校庭の「福島の森」と呼ぶカキ・ビワなどのミ二果樹園では4年生で果実を収穫しているが,「木の一生」,季節・気温の学習に活用している。開校以来20年,学年で自主的に栽培を継続しており,自然体になっている。教職員全員で知恵を出し合い,負担にならないよう,子どもの喜びになるよう配慮している。その指導資料には県農業振興課作成の冊子を有効活用している。このような栽培活動は,苗の提供や,高齢者の指導による2年生のミニ観葉植物作り,夏祭りでの販売などと,地域と繋がっていっている。
熊野川町立熊野川小学校(第9回,1999年)
昔ながらの稲作・餅つきと最新のインターネットとの融合は絶妙である。「たんぼ水族館」(放棄水田の湿地化と復田)を主舞台とした環境教育は,すでに全国的に知られている。これは,子どもたちの五感による原体験と感性の育成を基礎に知的心的に意味付けをする“体験の加工化”に展開し,全教科にクロスさせたカリキュラムとインターネットの活用による国内・国際交流を含む環境教育である。その一環として,狭い栽培体験作業に止まらない活動が行われているのである。本年度からもち米栽培を加え,さらに除草とイネの観察のためのアイガモ農法を導入したことによって,イネと稲作の持つ教育力を通じて,地域の人々との連携そして地域文化の継承といった深みと広がりをもたらした。収穫祭として,地元独特の「棒つき」餅つきだけでなく,水田雑草のヒエも収穫し,ヒエ餅とするほか,水車小屋でのダイズを黄な粉にするなど,教育として利用できるものを最大限利用している。また,これらの環境教育カリキュラムに関して各教科の単元・教材をプログラム化し,誰でも実践できるよう計画表作成ソフトを作成している。これは,教育の継承・発展にとって大切なことである。このように,町唯一の小学校で,たんぼ水族館のハード面における町と保護者等の強力なバックアップがあるだけでなく,これを教育活用するソフト面の充実がなされていることは,賞賛に値する。