第17回
2007(平成19)年度
和歌山県農業教育賞
審 査 結 果
優 秀 賞
: 和歌山市立 有功小学校
優 秀 賞
: 印南町立 稲原中学校
奨 励 賞
: 美浜町立 和田小学校
奨 励
賞 : 北山村立 北山小学校
賞設定の意義と審査経過
食べもの供給を基本として環境保全ほかの多面的機能を有する農業・農山村,そして生きものを育てる「農の営み」は同時に,次代を担う地域の子どもたちの「いのちと心」,「生き方」,「生きる技と術」を育む。食べ物と食べ方・文化,そして温暖化に代表される地球環境の観点から求められる食料の地産地消の基本は,「栽培して食べる」体験に基づく知識と考え方にある。これは地域の農業と社会にとどまらず,地球規模の人口・食料・農業・環境問題の打開のために,小・中学校教育に不可欠なものであろう。その「農の教育」を全県に展開して定着を図る一助として,この『和歌山県農業教育賞』は,和歌山県農業協同組合中央会によって1991年に設定された。応募校の実践の水準は当初よりはるかに高まってきていることからも,励み・目標として大きな意義が認められよう。
本年度は,5市8町1村から小学校13校と中学校2校の計15校の応募があり,うち過去の受賞校は7校であった。審査に当たっては,@ 学校教育の一環として取り上げられ,継続的に実施していること(児童・生徒の参加状況や取り組み体制,活動の記録等),A 明るく,楽しく,元気よく,農業体験を実施していること(栽培品目数や種類,収穫物の利用・活用状況等が全校的であること),B 家庭・地域との連携状況の3点を基本に,学校規模や地域環境による条件の違いを考慮し,まず応募書類によって絞り,ついで現地調査も行って総合的に判断した。審査対象が数量化し難く,条件の違いがあるため,相対比較だけでなく,最近の授賞校を尺度として比較検討も行った。また,以前の受賞校においてはとくに進展の程度に注目した。その結果,上記のように,優秀賞2校,奨励賞2校を選定した。
審 査 講 評
応募校全体について
小学校13校と中学校2校のプロフィルは以下のとおりであった。
地域分布:紀北5校,中紀7校,紀南3校
学校規模:学年2学級以上の大規模4校,中規模8校,学年1学級未満の小規模3校
(特別支援学級含めず)
給食方式:自校8校(米飯週3.8回),センター4校(米飯週3.5回),なし3校
地域環境:住宅市街地(都市的地域)1校,混住地(平地農業地域)10校,
農山村(中山間農業地域)4校
活動場所:学校園・学級園だけ3校,校外農地だけ5校,校内+校外7校
活動面積:93〜2,000m2,平均613m2。児童・生徒一人当たり0.7〜42
m2,平均10m2
(校外果樹園を除く,ポット,袋栽培は除く)
全校活動:サツマイモ7校,ダイコン3校,イネ(モチ・ウルチ)・トマト(ミニ含む)3校,
トウモロコシ・タマネギ・ダイズ2校,ナス・キュウリ・ピーマン・ラッカセイ・カブ・草花ほか
栽培作物:サツマイモ14校,ダイコン・イネ(バケツ栽培含む)10校,
ナス・トマト(ミニ含む)9校,キュウリ・トウモロコシ8校,カボチャ6校,
ダイズ(うち枝豆3)5校,インゲン・ジャガイモ・ピーマン・タマネギ4校,
ブロッコリー3校,スイカ(小玉含む)・ハクサイ・ホウレンソウ2校,
その他,コマツナ・レタス・キャベツ・ミズナ・オクラ・ゴーヤ・カブ・メロン・
ラディッシュ(二十日大根)・ラッカセイなど
果樹はミカン3校(うち1は観察摘果体験),ブルーベリー1校。花は除いた。
飼育動物:ニワトリ(チャボ含む)4校,ウサギ・セキセイインコ・金魚・コイ2校,熱帯魚ほか,
なし8校
食農に関する体験学習は,すべての学校で総合的学習の時間および生活科において実施されており,理科・社会科・家庭科(技術・家庭科)など教科に関連付けて,また特別活動・学校行事においても取組まれている。内容は,栽培して食べる活動(調理実習,給食も)として農と食の一貫に加えて,世話になった方々への振る舞いをはじめ,生産物を販売するように,産業・職業の理解そして進路につながる取組みも見られる。わが国の食と農そして文化の原点である米と稲作の体験学習は多くの学校で取組まれている。さらに伝統的日本型食生活に欠かすことのできない大豆の栽培から豆腐加工の一貫した実践も見られた。行政・JA・保護者・地域住民による知識・技能,農地や資材,資金も含めて物心両面の強力な支援がなされており,人生経験豊かな高齢者から,また年齢の近い農業系総合学科高等学校の生徒の指導によって,さまざまなことを学ぶとどうじに,子どもたちの側から地域の活性化につながるであろう学習活動もみられる。
授賞校について
農と食の活動とこれに関わる多くの人々とのつながりは,子どもたちの心豊かな成長につながる。「食と健康」のテーマの下で,ゆめのうえん・ミニのうえんに加えてプランタ・ポット・袋栽培において,サツマイモ,ミニトマトはじめ夏の果菜10種,ダイコンほか冬野菜4種,ミカン・ブルーベリー,校外学童農園(水田)で米作り(5年生)と,生活科と総合的な学習の時間と関連教科で全学年そして栽培委員会で何らかの作物栽培を行って,「成長のすばらしさ」,「収穫の喜び」,「生産者の苦労・思い・願い」を感得している。収穫物は,給食・調理実習・おやつ作り,稲作・米学習の締めくくりとして世話になった方々への手作りお米料理の振る舞いなどに,食育として大いに活用している。校長とともに連絡調整にあたる栄養教諭,整備された給食調理室で収穫物を活用する調理員,大型プランタを製作する校務員,学習支援に直接あたる教職員とともに,子どもたちがだいじな先生だと感じている市農林水産課,農政事務所,地域JA職員が外から支える。農業と農産物そして食べものと食べることへの関心と理解は,地産地消の意識の定着,給食残食の減少などなどをももたらすことを示してくれた。水田はともかく,伸び伸びと活動できる畑がほしいものだ。
土に触れる作物栽培は,さまざまな教育効果をもたらす。広い校外隣接農地において全校で年30時間の総合的な学習の時間「稲中農業」がそれを具現しているようだ―「ふるさと稲原」と「農業中学」を誇りに思うほどに! 地域の支えがあってのことだが,地域から学ぶだけではなく,将来の職業の選択肢ともなるようにと,学校は地域に貢献をはじめている。生徒の班活動の強化と自主性を促すために生徒の希望に基づき学年ごと夏・冬野菜各4種類を,また全学年サツマイモ・トウモロコシ・トマト・ナス(職員も)・スイカを栽培する。作目選択とともに播種から収穰,収穫物の調理・加工実習まで理科,技術・家庭科それぞれの教科・領域と関連付けて,栽培作業の課題解決学習としてインターネットや専門書で模索し,そして登下校時など自主的に野菜の世話・観察をする。圧巻は4俵80臼の三世代交流の場での餅つき。また「他の人と野菜のこうかん会みたいなんやったら」とか「残りは売ったらいい」と,産品直売所出荷に加えて校門に無人販売所を設置する。もちろん鍋料理実習で自分たちが食べるだけでなく,給食や持ち帰って家族で味わうほか,老人ホームヘの進呈もある。なお,子どもファーム活動コンクールかべ新聞セッション入選も飛躍の糧になろう。
校門入って左右の校内農園で全校的に野菜・花の栽培,校外2ヶ所の田畑でサツマイモ(全校)・米(5年生)。特別活動・総合的な学習の時間・生活科・理科・社会科・学校行事,委員会活動と位置づける。地域の特色そして人材を生かした体験活動を重視し,地域の人とJAの協力で地域・地域農産物への意識を高める。4年生でのリサイクルと環境美化と合わせてEMによるぼかし肥料づくり,松落葉による堆肥づくり,これを使ったイチゴ栽培実験も,子どもたち自身で入力する環境保全型米作りの記録もりっぱだ。センター方式なので給食では自分たちの作った野菜は食ベられないが,全校焼きイモ大会で楽しく食べるとともに,老人ホーム,作業所への米贈呈も。イネの草丈測定(支援農家の提案であるが)のように教科学習に意識的につなげることを期待したい。
3クラス17名,3つの縦割り班で元気いっぱいふるさと学習として多くを学ぶ。シカ・サル害に悩み防御策をたてて,校外で水稲,旧校舎の畑でサツマイモ,校内でトマト・トウモロコシほか野菜作りの週1時間の活動である。野菜は,持ち帰り(家族で試食)や余剰の保護者への販売もあり,餅つき大会,給食(自校,米飯週5回),家庭科で,さらに高齢者学級との会食で利用している。また20年以上になる新宮市立丹鶴小学校との交流1日授業参加に加え,隣接の熊野市立神上小学校との交流も特産のじゃばらの摘果作業体験等の合同授業も。3・4年生環境学習の一環としてEMによる生ゴミ堆肥を野菜作りに利用するとともにEM培養液をプールの浄化・清掃活動にも活用している。同じ敷地の中学校との食農教育の連携・体系化を望む。
今後の課題
採取・狩猟からヒトは,生存と生活の安定を求めて,サルとは異なって農耕に行き着き,社会を形成した。作物栽培・家畜飼育は,なかなか思い通りにはならないし,時間がかかる。生存さえもできない壊滅的打撃も多々あった。先人の知恵が詰まっているそれらを現代人が追体験するだけも学ぶことが多い。しかし先人は生きるか死ぬかの問題で,よりよい生活を望む強い意志のもと知識と技能を高めてきた。農耕の技術と科学である。それは,先(将来)を見通す目と「待つ」ことが必要で,作物・家畜の生育環境を改善するものと対象生物そのものに関わるものに分けられ,土地及び労働生産性を高めてきた。良いものを多く収穫するには,作物と栽培環境(土壌・気象・作物以外の生物)の分析的把握のうえに,作物が良好に育ち,かつ収穫部分の量・質を高める内外の環境を整え,さらに地球環境に負荷をかけないよう,総合的知識そして道具や機械をも使いこなして働きかける技能労働(農作業)が必要である。がんばってやるという意識・思いだけでできるのではない。
ヒトは動物という生き物であって,当たり前のことだが,他の生き物を食べものとして食さなければ,生活どころか,生存できない。それを保障する農とその産物そして係わる物事を,人類は文化にまで高めてきた,食べ物と富を巡っての数多くの争いも続けながら。したがって,「農と食」に関することは,人類として共通必須基礎基本の教養と言える。農耕の原理は,太陽エネルギーで二酸化炭素を固定し,無機物を有機物(生命体)に変換すること,そして生態系の物質循環にある。そういったことを知っていても活用できず,あるいは無視・軽視すれば「食べものの来し方,行く末」がとんでもない状況になるのだ。食べものはいのちである。自然にあるのでもなく,金を出しさえすれば買えるものでもない,人が自然に働きかけて作るものなのだ。ないがしろにすることがあってはならない。
「栽培して食べる」食農教育の意義は,これまでの応募校の実践においても示されている。例えば,栽培体験で実際にその作物に接することによって愛着の意識が高まって「嫌いだったものでも食べるようになった」り,食べものがいのちそのもので労働の産物であることを理解すれば「嫌いなものでも残さずに食べるように心がけ」たりする。食品の栄養や食べることだけの「食育」では,食事の作り手(の労働)への感謝の意「いただきます」だけに終わる。それまでの流通・生産労働にまで思いが至らない。ましてや「いのち,いただきます」につながらない。生物的自然への働きかけの産物である「いのち」とその循環そのものに向かい合うのが「栽培して食べる」教育なのである。
「栽培して食べる」教育が,なぜ,学校教育に教育課程として正当に位置付けられないのだろうか。農業を「教科」として体系的に教えることが,実は,規制されているからなのである。これを果敢に打ち破った(規制緩和の特別区域申請)のは,喜多方市である。以下,本農業教育賞の目指すところと一致するので,喜多方市小学校農業教育特区を紹介する。今後の取組みの参考にしていただきたい。
地域を限定して規制緩和する構造改革特別区域計画に,2006年11月,ラーメンと蔵で有名な福島県喜多方市に研究開発学校設置事業,すなわち農業のもつ教育的価値を活かした学習を進めると同時に,農業理解を深め地域と農業に貢献するための「小学校農業教育特区」が認定された。市内の3小学校に2007(平成19)年度に3年生から6年生までの教育課程に「農業科」が新設され,授業時数は総合的学習の時間からの移行で35(あるいは45)時間が確保された。
背景には,喜多方市は農業が基幹産業であり,その振興のためのアグリ特区事業がすでに進められていることにある。一方,小学校ではこれまでから,総合的な学習の時間の中で年間10時間程度の栽培活動に取組んできており,2003(平成15)年度から喜多方地区の小・中学校13校で,一部でしかなかった農作業体験から,栽培の初めから食べるまでの一連の食農教育を教育課程に位置づけ,実施するととも,市食農推進委員会を設置し支援と関係諸機関との連携強化を図ってきた。また,地区によっては地域住民やJAの支援を受け有機あるいは環境保全型稲作を教育活動として行ってきた。さらに合併後の2006(平成18)年度にさらに充実を図り,給食の地産地消推進など,学校教育と農業との融合を図る取組みを進めてきた結果,小学校農業教育特区の実現に至ったのである。
2008年度から,9校(将来的には全22校)に拡大され,授業時数もすべて45時間となり,前年度に編集・作成された「農業科テキスト」が使用され,本格的に展開される。校区の農業者が委嘱されて「支援員」となり,地域住民・保護者とともに教員の指導を支える。また,市内外の2農業高校との交流で生徒が児童の先生となるほか,交流会・研修会で教員も教科指導力向上を目指す。
農業科の目標及び内容(喜多方市教育委員会による)
農業科の目標
「なすことによって学ぶ」精神に基づき,農作業の実体験活動を重視した教育を展開する。
(1) 農作業の実体験を通して,自然の係わり合いの複雑さについて理解し,他の生き物と
共存することの大切さを理解することができるようにする。
(2) 農作業の実体験を通して,食べることの意味を理解し,生命の大切さを理解できる
ようにする。
(3) 農業に必要な気象,土壌,生物等の基本的な知識を習得すると共に,将来を予測し,
計画的に農業に取り組むことができるようにする。
各学年の指導内容
ア 小学校3年生
1年間の農作業の活動を通して,継続して作物の世話をすることの大切さを理解
できるようにする。
イ 小学校4年生
1年間の農作業を通して,土づくりや苗づくり,除草等きめ細かな作業の大切さを
理解できるようにする。
ウ 小学校5年生
1年間の農作業を通して,食と健康のかかわりについて学習し,食を守るための農業
の大切さを理解できるようにする。
エ 小学校6年生
1年間の農作業を通して,自然界には様々な生命が息づいていることを理解すると
共に,環境を守りながら自然と人間が共生することの大切さを理解できるようにする。
作物・家畜とその栽培・飼育は,最適な「素材」であるが,分析・整理・体系化し,発達段階に応じて実践展開できるよう教材研究をしなければならない。全校活動と各学年活動とでは当然,性格・内容・目標が異なる。教育と農業の双方から小・中一貫の観点からの教育内容を構築いただきたい。
バイオエネルギーと食糧との競合,輸入食料の安全性問題等々,外国依存の現実による諸問題解決の第一歩が食の自給「地産地消」「地域自給」,すなわち自分(たち)の命は自分(たち)で守る―自立と協同を基本にして,地域で農業に携わる人,支持する人をつくることにある。子どもたちに農と食の産業・職業そして経済的・社会的側面を国際的にもっと目を向けさせ,真に生き抜く力を付けさせてほしい。地球の多様な生物と世界の人類の生存・持続を保障するために。
審査委員長 小林民憲(和歌山大学教授)
付 録
この賞の審査は,冒頭に記したように応募書類によって始まる。昨年あるいは一昨年の受賞校では今回の進展の程度が,一方,他の新規応募学校では審査項目に照らしてどうかが焦点となる。面倒な書類を整えて応募されているので,ぜひ賞を狙っていただきたく,審査基準の項目に即して若干のコメントをしておきたい。
@ 学校教育の一環として取り上げられ,継続的に実施していること,
(児童・生徒の参加状況や取り組み体制,活動の記録等)
教科あるいは教育内容の連続・継続性の観点からすべての学年すなわち学校全体の取り組みとして,各教科では学年に応じた学習目標・内容の教育課程での位置づけ,総合的学習としては教科との関連・系統性の明確化もほしい。できるなら,異年齢集団の共育としての全校的活動も望ましい。中学校においては小学校との連携で,より高度な発展学習としたい。そのためには,教員の役割分担と統括といった組織的な取り組み体制,教育計画上の位置づけの確立が大切になる。そこまでいけば当然継続することになろう。さらに,応募書類としても必要なことだが,教育評価としても児童・生徒の様子などとともに,想定外の失敗から学ぶためにも記録も大切だ。ユニークさをアピールするためにもネーミングも含めてインパクトのある表現の工夫もしてほしい。
A 明るく,楽しく,元気よく,農業体験を実施していること
(栽培品目数や種類,収穫物の利用・活用状況等が全校的であること)
農業体験学習の内容として,栽培品目の種類・数が多く,栽培面積が広ければよいというものではない。しかし,狭小面積では子どもたちの活動力・協働力が発揮しえない。学年の学習内容・目的に応じた作目の精選とともに,学習内容に応じた面積を確保すべきだ。作物の連作障害は必ずあるのでその回避のための輪作にも余裕のある面積が必要である。また,学習教材である作物とその栽培から何を体験的に学ばせるか,とくに総合的学習では教科の学力形成とのつながりと学習成果もほしい。さらに,収穫物もまた教材として,自分たちで“食べる・飾る”に加えて,加工や調理ほか多面的に活用いただきたい。販売もその一つだろう。
B 家庭・地域との連携状況
校地が狭く適切な面積がない場合,生産現場である農地そして農業者の知恵・技を借りることになり,JA,行政・試験研究機関,農業高校あるいは大学の専門家の協力も必要だ。ここで留意すべきことは子どもたちが「お客様」とならないよう依存しすぎ(いわゆる丸投げ)をさけることである。そもそも「教育としての農業」は,作付け時期だけを取ってみても農家の生産技術そのままではないのである。教育の専門家である教員・学校側の確固たる理念と主体性,実践力向上を目指す意気込みは不可欠だ。それと子どもたちの自由な発想を大事にしたい。その中から逆に地域に発信・還元・波及するような効果も期待される。また保育園・幼稚園から農業高校(総合学科農業関連系列も)との交流・連携も進めていただきたい。