第15回2005(平成17)年度
和歌山県農業教育賞
審 査 結 果
優 秀 賞 : みなべ町立 岩代小学校
奨 励 賞 : 紀美野町立 下神野小学校
奨 励 賞 : 有田川町立 御霊小学校
奨 励 賞 : 湯浅町立 田栖川小学校
賞設定の意義と審査経過
以前からの勤労・奉仕的行事(特別活動)や小学校社会科産業学習から,生活科そして総合的学習の時間に至り,教育と農業との接点の機会がおおいに増した。加えて,昨2005年6月に成立した食育基本法である。食べもの供給を基本として多面的機能を有する農業・農山村,そして生きものを育てる「農の営み」は同時に,次代を担う子どもたちの「いのちと心」,「生き方」,「生きる技と術」を育む。その「農の教育」を全県に展開し,定着を図ることは,地域の農業と社会に,ひいては地球規模の人口・食料・農業・環境問題の打開に,長期的・間接的ではあるが,資することになろう。その一助としてJA和歌山中央会によって1991年に設定されたこの『和歌山県農業教育賞』には,応募校の実践の水準ははるかに高まってきていることからも,励み・目標として大きな意義が認められる。
本年度は4市7町から小学校15校と中学校1校,昨年度と同数の応募があった。審査に当たっては,@学校教育の一環として取り上げられ,継続的に実施していること。(児童・生徒の参加状況や取り組み体制,活動の記録等),A明るく,楽しく,元気よく,農業体験を実施していること(栽培品目数や種類,収穫物の利用・活用状況等が全校的であること),B家庭・地域との連携状況を基本に,学校規模や地域環境による条件の違いを考慮し,まず応募書類によってしぼり,必要に応じて現地調査も行って総合的に判断した。審査対象が数量化し難く,条件の違いがあるため,相対比較だけでなく,最近の授賞校を尺度として比較検討も行った。また,前年度受賞校においてはとくに進展の程度に注目した。その結果,上記のように,優秀賞1校を選定し,また奨励賞3校を選定した。
なお,残念ながら,最優秀賞は該当なく,再度の応募があった前年度の最優秀校は,やはりすばらしい内容であったが,募集要項の注に基づき,表彰の対象から除くことになった。
審 査 講 評
応募校全体について
中学校からの応募は1校しかなく,紀北東部や紀南東部からの応募がなかったのは残念であるが,近年,環境とのかかわりがやや後退してきている一方,栽培して食べる活動や“自産自消”の学校給食のように食と農の一貫した取り組みが定着してきている。応募小・中学校16校のプロフィルは以下のとおりであった。
地域分布:紀北8校,中紀6校,紀南2校
学校規模:13学級以上の大規模4校,中規模10校,6学級未満の小規模2校
地域環境:住宅市街地(都市的地域)0校,混住地(平地農業地域)13校,農山村(中山間農業地域)3校
活動場所:学校園・学級園だけ3校,校外農地だけ4校,校内+校外9校
活動面積:27〜1,730m2,平均491m2。児童・生徒一人当たり0.3〜13.7m2,平均4.6m2
(校外果樹園を除く)
全校活動:イネ2校,サツマイモ6校,ダイコン1校,タマネギ1校
栽培作物:イネ・サツマイモ12校,キュウリ・ダイコン9校,ミニトマト8校,トウモロコシ7校,ヒョウタン・カボチャ6校,ダイズ・ナス5校,ジャガイモ・インゲン4校,オクラ・スイカ・ヘチマ3校,タマネギ・ラッカセイ・ブロッコリー・ラディッシュ2校,コムギ・トマト・キャベツ・ケール・ハクサイ・ミズナ・ホウレンソウ・ナタマメ・キクイモ・コンニャク他1校。(果樹はミカン・ウメ。花は除く)
稲作体験学習は,米の消費量が60kg/人/年に満たなくなったとはいえ,ほとんどの学校で取り組まれ(水田だけ8校,バケツだけ4校,併用2校),農家水田とバケツ稲作それぞれの学習内容の区分整理や手作業だけでなく機械作業の体験・見学もみられるようになった。他方,米に匹敵する消費量の小麦での実践は初めてのことである。野菜・花の栽培では,上にまとめたように,数多くの種類が教材とされているが,目的・目標を明確にし,教科学習と関連付け,さらに流通経済・労働・進路の観点にまで発展させた実践もみられるようになった。果樹では収穫だけでなく摘果や,梅では加工から商品として販売する体験学習もまた,地域から学ぶ活動として行われている。
行政・JA・保護者・地域住民の支援による近隣農地の借用やゲストティーチャーの活用はいうにおよばず,校内あるいは隣接荒れ地の独自の耕地化もみられた。地域の人々とくに高齢者から調理・加工を学びつつ,学習活動成果を自分たちで味わうだけでなく,プレゼントするなどふれあいとともに地域に還元するほか,近隣校園との交流を深めなど地域における子どもたちの存在感を高める活動も多くなった。変化しつつある地域の様々な社会・文化・自然環境に応じた農の教育がなされているといえよう。さらなる発展を期待したい。
授賞校について
ずばり「みなべの梅学習」として,3学年以上の児童の総合的な学習の時間での梅収穫,梅ジュース作り,梅漬け・天日干し,梅干し製品作りといった縦割り班の体験活動と学年ごとにサブテーマを設定した調べ聞き取り学習に取り組んでいる。今年度はさらに「しそ梅」を商品化し,3学期2月の学習発表会において地域の人々・保護者にこれを販売する体験活動まで行った。生活科・理科・社会科の学習・特別活動・委員会活動においては,播種・植付けから始まるトウモロコシ・サツマイモをはじめ,夏果菜・冬根菜そしてバケツ稲の栽培も目的を明確にして計画的に行っている。収穫(梅拾い)で始まる梅学習を補完する位置付けでもある。そのうちジャガイモは特別で,梅繁忙期の地域の共同炊事に端を発した伝統の学校行事「カレー弁当作り」の食材として栽培しているものである。収穫物は各教科で活用,調理実習として長期にわたって世話をしてきた達成感や収穫のよろこびを味わうほか,協力いただいている老人クラブの方に届けて絆を深めている。梅学習の収穫以前への取り組みも含めて,南部高校との交流学習による発展が期待される。
「小麦から見える世界」 6年生は5年生の秋から小麦(品種名オマセコムギ)栽培の全行程を児童の手で行い,パン作りの体験活動とともに歴史・栽培などをテーマに総合的学習に取り組んだ。米作り体験(3〜5年生)にも取り組んでいるが,目的に応じて単学年・複数学年で季節に応じたサツマイモ・ダイコン・キュウリ・トマト・イチゴその他花など土に親しみ意欲をもって栽培活動に行っており,自信をつけ,失敗から学んでいる。野菜栽培とくに冬野菜やイモなどは90年以上続く地域の農産物展に向けての取り組みでもある。米に近い消費量でありながらほとんどが輸入である小麦に目を向けたことが特筆されるが,今回限りなのは惜しい。食農教育の位置付けを明確にされ再び取り組まれることを望む。
「ナスってこんなにおいしいとしらんかった」―食育は栽培から始まることを証明している。2年生生活科での種まきからはじめる野菜つくりは,生活に活かす理科・算数的な学習となっていることもさることながら,自分たちで作った季節の野菜の収穫ごとに子ども用の包丁を使って調理実習することで確実に自立の基盤をつくっている。家庭でも調理し,失敗したり,ほめられたりしながら,親子の関係を深くしている。各教科,総合的な学習において1年生は花作り,3年生ではミカン,5年生では米つくりとカボチャなど野菜つくり,6年生ではインゲン・ジャガイモと,全校的に農業体験学習が行われている。野菜栽培の多様な教育効果がミカン産地の,300名近くの学校全体のものとなっていくことを期待したい。
“ししょう”と“でし”は2年生と1年生のことである。1人対1〜2人の4グループに分かれ,生活科学習で野菜の栽培活動を行っている。経験のある2年生“ししょう”はりっぱに役割を果たし,「かわいそうやけど,ごめんね」と雑草を引き害虫を取り除き「おいしくなあれ,大きくなあれ」と手作業で収穫まで取り組んでいる。総合的な学習として全校でサツマイモ,教科学習としてもバケツ稲作,ジャガイモ・タマネギはじめ,苗つくりは地域の人によるが,多種類の夏・冬野菜の栽培を全学年で行っている。地域の人の励ましの声掛けで,野菜とともに子どもたちは感性をふくらませ,育っている。そして保護者や地域の人と人をつなぎ,大きな輪をつくっている。今年の“でし”は来年“ししょう”となる。楽しみだ。
今後の課題
今年度応募の,昨年度の最優秀受賞校・田辺市立会津小学校は,19学級もある大きな学校であるが,ほとんどの学年・学級で花・野菜を栽培し,多面的に教科学習・学校行事に活用している。5年生の稲作体験学習は借用水田が見つからずできなかったが,ひまわり学級と中学校との触れ合い交流が一層進展したほか,夏休み前全校集会での励ましによって農業関係の夏季作品展に向けた研究が昨年以上にたくさん出され,大学生も顔負けのりっぱなものですぐれたものとなっている。このように,高い水準を維持しているが,表彰要領上,先進実践事例の基準とさせていただいた。同様に,優秀賞受賞校であった紀の川市立調月小学校では,6年生が樹木の種子をまき,育った苗を在校生にゆだね,調月の森作りを目指している。野菜つくりは作目を絞り,個々の取り組みを大切にし,米作りは町内の桃山小学校と田植え・稲刈りを合同で行い交流している。いずれも,子どもたちの意欲付けのために感動を冊子にするなど高い水準で,優秀賞のレベルではあるが,毎年連続して同じ賞という矛盾を避け,新規応募校に譲っていただいた。今後,主として稲作体験学習にさらに一工夫いただき,最優秀賞を目指していただきたい。
惜しくも選に漏れた学校それぞれの実践は紹介できないが,応募書類でのプレゼンテーション・アピール,作物とその栽培の教材・教育的観点,ユニークさ・インパクトいずれかにやや欠ける面もあったのは惜しまれる。以下,審査項目に即して,若干のコメントをしておきたい。
まず,審査基準の「学校教育の一環として取り上げられ,継続的に実施していること。」に関して,児童・生徒の参加状況は,教科あるいは教育内容の連続・継続性の観点からすべての学年・学級で何らかの取り組みがあり,できるなら,学ぶ内容は当然異なるが,異年齢集団の共育としての全校的活動も望ましい。応募書類に記載がないだけかもしれないが,5年生の稲作で田植え・稲刈り体験だけではごく一部の活動になってしまう。学校全体の取り組みとして,各教科では学年に応じた学習目標・内容の教育課程での位置付け,総合的学習としては教科との関連・系統性の明確化も必要である。中学校においては,小学校以上の内容程度になるよう,小学校とのつながりにも注意を払いたいものである。教員の役割分担と統括といった組織的な取り組み体制,ポリシーの確立が大切になろう。なお,応募書類としても必要なことだが,教育の自己評価としても児童・生徒の様子などとともに想定外の失敗から学ぶためにも記録も大切だ。ユニークさ・特色をアピールするためにも表現の工夫がほしい。
つぎに,「明るく,楽しく,元気よく,農業体験を実施していること。」は,農業体験学習の内容とその場に関してのことである。栽培品目の種類・数が多く,栽培面積が広ければよいというものではなく,学習内容に応じたものがあるだろう。狭小面積での“デモ実験”では子どもの活動力が発揮しえないし,作物の連作障害回避のためにも余裕を持った面積が必要である。各学年の学習内容・目的に応じた作目の精選が必要であろう。子どもたちに自由に選ばせた場合,逆に作物とその栽培から何を学ばせるかを明確にするうえでも,教材研究は欠かせない。とくに,総合的学習の時間に関しては,情操・道徳面に加えて,教科との関連の”学力”形成につながるようさらに研究の進展が望まれる。作物栽培には利用目的が伴う。食べるだけでなく,“飾る”というのも直接の利用目的だが,収穫物の多面的な活用とともに,次項との関係で特色・目玉となるものを地域から得ることも図っていただきたい。
最後に,「家庭や地域との連携状況。」に関して,学校は,将来地域を担う人づくりに役割があり,地域の文化センターでもあるので,地域からさまざまな環境や文化を学ぶと同時に,それらの伝承・維持・発展など還元・波及するような効果も期待される。栽培活動では,校地が狭く適切な面積がない場合,校外の生産現場である農地を借りることになるが,とくに水田稲作では,農業者の知恵・技の協力も欠かせないし,JA,行政・試験研究機関,農業高校あるいは大学の専門家も必要だ。社会・家庭との連携・協力が必要だが,依存しすぎ(いわゆる丸投げ)では,子どもたちは「お客様」となってしまう。そもそも「教育としての農業」は,農家の生産技術そのままではないのである。教育の専門家である教員・学校側の確固たる理念と主体性,実践力向上を目指す意気込みは不可欠だ。また「農高生徒が先生」になることも含めて農業高校(総合学科農業関連系列も)との交流学習を進めていただきたい。特徴・特技を確立して,教職員全体・学校としての体系的な財産として積み上げ,すばらしい実践が面として広がっていくことを期待したい。
農業の教育力を活かすために
栽培・飼育(農の営み)は人間だけの行為であって,人間が生存・生活に必要な物資を得るために生物的自然に働きかけをすることである。これをするだけで,期せずして(企図せずとも)学ぶことが多いものである。その故に,幼稚園教育課程とともに,引き続く小学校生活科には最適な教材となる。教科別学習への発展・つながりもおさえる必要があるが,おぼろげに(総体として)感じ取ればよいだろう。総合的な学習においても「素材」としてはこれほど最適なものはない。が,各教科のそろった(家庭科は後になるが)第3学年以上〜中学校では,そのままでは学習としては不十分であろう。勤労の尊さ・収穫の喜び・生産者の苦労といった道徳的な学習目標だけでは,実施に苦労する教材としてはもったいない。作物とその栽培あるいは家畜とその飼育そして農作業をさらに教材として分析・整理し,体系化して指導することによって学力につなげたい。
栽培はできればよいといったものでなく,質・量ともに高めて収穫することで楽しみも増す。おいしい果実ができるのは,がんばってやったからという意識・思いだけではない。作物と栽培環境―土壌・気象・生物(作物以外)の分析的把握のうえに,作物が良好に育ち,かつ収穫部分の量・質を高める環境を整え,さらに地球環境に対する負荷をかけないよう,総合的知識そして道具や機械をも使いこなして働きかける技能的労働が不可欠である。頭脳と全身をもって自然に働きかける総合的な知的集約産業,農業は「脳業」である。子どもたちの「なぜだろう,こうしたらどうだろう」といった素朴な疑問・自由な発想で「失敗も学習,自由にやってみよう」と課題解決的あるいは実験研究的手法,比較実験手法を用い,必ず「なぜそうなったか」という結果の検証をすることによって確実な学力につながるすばらしい発見につなげてほしい。
栽培体験することによって「嫌いだったものでも食べるようになった」とよく聞く。実際にその作物についての多くの知識を得て意識を高めたことによって,それまでの「嫌い」という意識の比率が極めて小さくなることによるのではないか。栄養的・消費的な知識・技能だけではなく,栽培(農業生産)体験が必要で,農の教育は「食育」を含んでいるといえる。また,従属栄養生物である動物は,独立栄養生物である植物によって生かされており,人間は植物とともに動物をも食料としている。つまり「いのちをいただいて」生存している。よりこのことを実感できる家畜・家禽飼育の学校教育での利活用がまだまだ不十分なことはさておき,食事の際,作り手(の労働)への感謝の意とともに「いのちを,いただきます」がいえるためには,「いのち」とその循環そのものに向かい合わせることが最良の選択であろう。「おいしくなあれ」「大きくなあれ」といった感情移入はバーチャルでは得られない。生産・労働から疎外・乖離された現代の子どもたちに,大地に足をつけた“ものつくり”こそが求められているのである。
2006年2月25日世界人口65億人を突破したとのこと。「mottainaiもったいない」に象徴される環境と同時に食料の世紀である。2004年は国際連合が決めた「国際コメ年」であった。多くの学校で取り組んでいる稲作学習・食べもの学習にどれほど反映したのだろうか。国際化の最たるものは,食である。熱量で6割以上を外国から買っている現実,世界の飢餓と飽食・一向に減らない栄養不良人口といった問題も,食の安全にかかわる問題も,解決の第一歩が食の「地産・地消」「地域自給」,すなわち地域で農業をすることにある。子どもたちに食と農の産業・職業そして経済的・社会的側面を国際的にもっと目を向けさせ,生き抜く力としてほしい。
審査委員長 小林民憲(和歌山大学教授)