122002(平成14)年度

和歌山県農業教育賞がんばれ,自然と地球人

最優秀賞     広川町立 南広小学校 井関分校

    野上町立 野上小学校 柴目長谷分校

    野上町立 小川小学校,白浜町立 白浜第一小学校

    田辺市立上秋津小学校

賞設定の意義と審査経過

  食べもの供給を筆頭に,多面的機能を有する農業・農山村,そして生きものを育てる「農の営み」は同時に,次代を担う子どもたちの「いのちと心」,「生き方」,「生きる技と術」を育む。「農の教育」を全県に展開し,定着を図ることは,地域の農業と社会に,ひいては地球規模の諸課題解決に,長期的・間接的ではあるが,資することになろう。『和歌山県農業教育賞』は,「農」の体験を通じて,児童・生徒の豊かな情操を育み,学習に大きな成果をあげている学校と子どもたちを称えるために,JA和歌山中央会によって先駆的に設定された。今年度で12年目となるが,生活科さらに総合的学習の時間による追い風もあって,当初の実践の水準からはるかに高まってきていることからも,励み・目標として,この賞には大きな意義が認められる。

  審査に当たっては,学校教育の一環として継続的に取り上げられ,明るく,元気よく,そしてユニークな農体験実習を実施していることを基本に,具体的には,学校規模や地域環境による条件を考慮し,@児童の参加状況,A取り組み体制,B教育課程での位置付け,C作目(家畜)の種類・数・栽培面積,D地域の特色の活用,E地域社会(行政やJA)との連携,F地域への波及効果,G地域・文化と学校とのかかわり方,H記録・表現方法などを審査項目として,まず応募書類によってしぼり,必要に応じて現地調査も行って総合的に判断した。審査対象が数量化し難いものであり,条件の違いがあるため,相対比較だけでなく,最近の授賞校を尺度として比較検討も行った。その結果,最優秀賞1校,優秀賞1校に加えて,奨励賞2校,特別賞1校を選定した。なお,中学校については,応募数も多くない現在,小学校との違いに考慮を払いつつも敢えて区別をしなかった。また,たしかに「継続は力なり」である。とは言うものの,応募校全体の水準が上がってきているなか,教育においてはやはり発展・向上が常に求められよう。再度応募された授賞校でも,受賞がかなり以前の場合,進展の程度が焦点になることを付記しておきたい。

  応募校全体について

  応募は,小学校22校,中学校2校の計24校で,昨年度より6校増の過去最多であった。それらの分布は,482村にわたったが,紀北に多く11校,中紀7校(うち中学校1),紀南6校(うち中学校1)であった。学校規模別には,13学級以上の大規模3校,中規模10校,6学級未満の小規模11校(うち中学校2)であった。校区の地域環境としては,住宅市街地(都市的地域)5校,混住地(平地農業地域)9校,農山村(中山間農業地域)10校(うち中学校2)であった。校内の学校園・学級園だけの活動は4校(うち1校はバケツだけを使用)で,その他20校は校外に農地(うち9校は校内農地に加えて)を求めている。それらの面積は,果樹園をも学習活動の場に組み込んだ2校とバケツ利用だけの1校を除くと,251,000m2,平均398m2であり,児童・生徒一人当たり面積は0.624m2,平均7.6m2であった。校外の農地は地域の農家またはJAの協力の賜物で,活動の技術的な支援・協力も地域・JA・行政によるところが大であった。

  「総合的学習の時間」完全実施の今回は,移行期の昨年度と大きく変わらないが,体験と情操教育にとどまらず,生活科学習と,いくつかの教科と関連付けた文字どおり総合的な学習となった活動がほとんどであったことが第一の特徴である。第二に,地域の自然・文化・産業を学び,地域の社会と人々から学ぶ活動として特産作物を採用している事例が多くなったこと,第三として生産物の利用法も試食・プレゼントから食教育・食文化的な面に発展してきており,第四に,環境への関心と農業の動向を反映して,環境保全型農業への指向や,子どもたちの自主的な学びを引き出す支援も強調されるようになったことも特徴といえよう。

  応募小学校22校・中学校2校いずれも,子どもたちが生き生きと楽しんで学んでいる様子が応募書類の写真,CD・ビデオや観察記録ノート,作文などで見られた。その一方では苦労したけれど,子どもとともに楽しんでおられる先生方のようすもまた窺えた。応募書類ではないが,インターネットホームページが充実,すなわち豊かな情報発信をしている学校も多くなった。応募校それぞれ,発達段階に応じて,都市化,逆に過疎化など,変化しつつある地域の様々な社会・文化・自然環境に応じたバラエティーに富んだ農の教育がなされ,総合的学習,各教科の学習,いのち・こころの学習,ふるさと学習,交流学習,地域連携等々に活用され,発展していることが認められた。

 


  授賞校について

最優秀賞:広川町立南広小学校井関分校

  「くらべてみよう」が農の体験にとどまらず,文字どおり「総合的学習」として高い成果を上げている。そして,低学年の児童だけでもここまでやれるようになるというのも,みごとだ。3年生までの分校で,地域の農業と人々に依拠して,学校全体(18名)の縦割り班の活動で学校園でのサツマイモ,イチゴ(一人一鉢も)栽培,また生活科,総合学習として学年ごとにイネや多様な野菜の栽培を行っている。また,収穫物を給食,調理(収穫祭等)で利用し,栽培でお世話になった人に食べてもらう,持ち帰って食べる,といったことにおいては,一般的とも言える。しかし,2年生にもなると12mほどだが1畝に自分で選んだ作物を畝立てして栽培しているだけでなく,水田イネとバケツイネの「長さくらべ」で出来の良し悪しを把握し原因を考え,イチゴ畑への米ぬか・もみ殻の施用の有無の違いを比較し,落花生では1粒からいくつとれたかを調べる。試験研究ともなる内容に加えて,害虫防除への給食の残りものの牛乳・酢や木酢液の利用,畑の土の湿り具合の判定への割り箸の利用,余ったナスのぬか漬け保存,といったことなども子どもの発案・創意・工夫が生かされて課題解決学習としている。ほかにも,収穫前に活用方法を学年・グループで話し合って決め,いのちのつながりとして,グラウンドの周りの花つくりでは新1年生へのプレゼントとして花の種子とりをしている。なんといっても,子どもたちが,もちろん先生方も,きれいな花を見て,おいしいイチゴなどを食べて,楽しんで学んでいるのはすばらしい。

優秀賞:野上町立野上小学校柴目長谷分校

  「環境に優しい米作り」−無農薬のアイガモ農法の稲作に34年生が総合的学習で主体的に取り組んだ。2年前のバケツ稲作から発泡スチロール箱稲作と休耕田での慣行稲作を経て,児童の発案・強い要望が,アイガモ稲作に発展させたのである。子どもたち自身で本やインターネットで調べ,苗作りから全校での田植え,アイガモの小屋作り,餌やり,畦際の大きな雑草取り,収穫・稲架干し,機械での脱穀,近くの精米所での精米まで,できることは児童がすべて楽しんでやっている。また,並行してのバケツ栽培イネと比較しての違い(無農薬で病虫害甚大)などは主体的な学びとなった。アイガモ米は収穫祭(おにぎりと12年生栽培のダイコンを使ったおでん)等々で効果的に活用されたのは言うまでもない。アイガモ入手にはJA,網張りなどは保護者,経費ではオーナーとなった地域の人たちの援助・協力によるところ大であるが,逆に地域に一つの波紋をもたらしたようである。また,校内での学習発表会だけでなく,わかやまジュニア環境サミットで4年生が発表したことも情報発信として効果的だ。「いのち」を学ばせてくれたアイガモは最後には他所にもらわれて行ったが,食鳥としてのアイガモに至るのは不可能だろうか。

奨励賞:野上町立小川小学校

  『野菜すくすく<農して食に集う>』『やるぞ!<作って食べて,広めよう>』『スーパー<農にしたしむ>』『ハロウィン<農して,自分が主人公>』,これらは小川っ子タイム(生活科,総合的学習)での全校縦割り4チームの名前とテーマである。給食教育研究の一環であるが,農から食に迫る取り組みとなったのも,これまでの「ゆとりの時間」での地域学習と10数年前からの米作り体験の実績による。自分たちチームの作りたいスイカ,サツマイモ,キュウリ,トマト,カボチャ,大豆,うるち米,もち米ほか,毎日の始業前はもちろん,夏休みも子どもたちは自主的に田畑に行き,足音を聞かせて育てた生産物は,栄養・調理・加工(とうふ作り),給食,収穫祭,餅つき大会と活用するが,食べきれない野菜は無人販売ボックスを作って販売までしている。

奨励賞:白浜町立白浜第一小学校

  花いっぱいの大きな学校である。総合的学習として全校縦割り班で11鉢の花を作り,「校内花コンクール」を行って,花の美しさだけでなく栽培過程も評価対象としているのはさすがだ。さらに,野菜作りも,地域に農家がほとんどないからこそ,生活科,特別活動,理科,委員会活動と力が入れられており,とくに5年生は「わくわく野菜王国」と題して,グループごとにスイカ,カボチャ,トウモロコシなどの野菜栽培に取り組んでいるほか,1年生はホウレンソウ・ニンジン,236年生はダイコン,養護学級はダイコン・べんり菜,栽培委員会はスイカ・トウモロコシ・べんり菜を地域普及センターと校区外の農家による指導を受けて栽培している。もちろん,収穫祭・キャンプ,調理実習,持ち帰りのほか,老人ホームとの交流で活用している。

特別賞:田辺市立上秋津小学校

  発展とどまるところを知らず,とでも言うべきか。狭い中庭学習園の充実もさることながら,地域と連携を深めての農的活動の実践は,みごとである。全校の児童会活動と総合的学習「上秋津タイム」そして各学年でのミカン,ウメをはじめ,根菜5種,葉菜9種,果花菜14種と多彩な作物栽培の学習をしているが,体験にとどまらず,例えば,以前からのミカンの経時的肥大調査,ウメの経時的着花(果)率調査に加えて,1年生のサツマイモ作りでは肥料の空き袋植え(11袋)と圃場植えを平行し,比較・観察を行うなど学習として工夫を凝らしてきている。学校の熱意は,地域が応え,農業体験学習運営委員会(JA紀南青年部,JA生産販売委員会,育友会,普及センター,公民館,老人会,学校)が支援・協力しているほか,指導者「野菜博士」も募集しており地域の人材活用もまたすばらしい。収穫物の活用も,学校内は言うに及ばず,地域とのつながり,学校間,他県の学校との交流で活用している。また,学校林では「みどりの少年団」(56年生)の行事としてドングリの植林を行っている。


  今後の課題

  授賞校の実践は,先進事例である。情報の発信をおおいに進めていただきたい。選外となった応募校も,ともにりっぱな実践であろう。応募書類でそれがよく読み取れなかったり,教材・教育内容として作物とその栽培が十分にこなされていない,今一歩のユニークさ,あるいは,インパクトにやや欠ける面があったのは惜しまれる。それぞれ学校の特徴・特技を確立して,教職員全体,学校としての体系的な財産として積み上げていただきたい。

  元来「ものつくり」は農作,食べものつくりであって,その有無が人間とサルとを決定的に区別するのである。それをする農業は,生きものとこれを取り巻く自然に向い合い,頭脳と全身をもって働きかける総合的な知的集約産業,「脳業」であり,期せずして(企まないでも)学ぶことが多いものである。総合的な学習の素材としてこれほど最適なものはない。作物とその栽培あるいは家畜とその飼育をさらに教材として分析・整理し,総合的な学習における位置付けを明確にすれば,格段に教育効果が上がるだろう。ぜひ,研究いただきたい。

  農業は,対象の生き物と環境への働きかけによって結果が変動するものである。出来ればよいといったものでなく,安全で良いものを多く収穫することが目標である。そのためには,土壌,気象,生物(虫・微生物)環境に常に注意を払い,様々な働きかけ・工夫(技術)が必要である。このことを子どもたちの身に付けさせると同時に,なぜだろう,こうしたらどうだろう,どうなるだろう,といった子どもたちの素朴な疑問・発意を大切にして,課題解決的あるいは仮説・実験研究的手法や比較手法をもっと採り入れ,すばらしい発見につなげてほしい。

  農の教育実践には地域とくに農家の協力が欠かせない。が,農家の技術そのままではなく,「教育農業技術」としては将来を見越した環境保全型農業でなければならない。したがって,依存ではなく,学校側の確固たる理念と教員の主体性を持った実践力向上を目指す意気込みには地域は応えてくれる。

  子どもたちは,生きものを育てることが本当に好きで熱中する。お人形さんごっこで終わらせないようにするためには,「いのち」そのものに向かい合わせることだろう。それが実感できる動物飼育はペットではなく,経済家畜としてである。ヤギ・ヒツジなど中家畜飼育はすこぶる有効であるが,ニワトリ・アイガモも教材として活用をもっと図っていただきたい。食事の際の「いただきます」が,「いのちをいただく」ことだということが分かるように。

  地球レベルの環境・人口・食料・エネルギー・平和の諸問題解決の一歩が「地産・地消」あるいは「地域自給」にある。その一端を担い,次世代の人材養成や地域活性化にも大きな役割を果たす「栽培・飼育して食べる教育」としたいものである。

審査委員長 小林民憲(和歌山大学教授)