第11回2001(平成13)年度
和歌山県農業教育賞 「がんばれ,自然と地球人」
審査結果
最優秀賞 : 和歌山大学教育学部附属小学校
優 秀 賞 : 和歌山市立雑賀小学校,和歌山市立野崎小学校
奨 励 賞 : 中津村立川中第一小学校,那智勝浦町立色川小学校,
和歌山市立紀伊中学校,龍神村立龍神中学校,田辺市立中芳養中学校
賞設定の意義と審査経過
食べもの供給を筆頭に多面的機能を有する農業・農山村,そして生きものを育てる「農の営み」はどうじに,時代を担う子どもたちの「いのちと心」,「生き方」,「生きる技と術」を育む。その教育の展開・定着をめざした『和歌山県農業教育賞』は,節目の11回目となった。この賞は,「農の営み」を学校教育の中に採り入れ,豊かな情操を育み,学習に大きな成果をあげている学校と子どもたちを称え,この成果を全県に広げていくために,JA和歌山中央会によって先駆的に設定されたものである。児童・生徒の農の体験的理解を通じて,地域の農業と社会に,ひいては地球規模の諸課題解決に長期的・間接的ではあるが,資することになろう。
審査は,まず応募書類によってしぼり,次いで現地審査をも行って授賞校を選定した。審査に当たっては,(1)学校教育の一環として継続的に取り上げられ,(2)明るく,元気よく,そして(3)ユニークな農体験実習を実施していることを基本にした。具体的には,学校規模や地域環境による条件を考慮し,@児童の参加状況,A取り組み体制,B教育課程での位置付け,C作目(家畜)の種類・数・栽培面積,D地域の特色の活用,E地域社会(行政やJA)との連携,F地域への波及効果,G地域・文化と学校とのかかわり方,H記録・表現方法などを審査の項目として総合的に判断した。審査対象が数量化し難いものであり,条件の違いも多々あるため,まさに選定に苦慮したが,相対比較だけでなく,これまでの授賞校との比較対照も行って最優秀賞1校,優秀賞2校,奨励賞5校を決定した。なお,中学校にも対象を広げて2年目で応募数も多くない。小学校との多少の違いに考慮を払いつつも敢えて区別をしなかった。また,昨年度最優秀校には再度の応募をいただいた。ありがたいことであったが,これ以上の賞もなく,賞の絶対尺度として参照させていただき,最優秀賞は新進に譲っていただくこととした。
審査講評
応募校全体について
応募は,小学校15校,中学校3校の計18校で,過去最多数であった。それらの分布は,4市6町2村にわたったが,紀北に多く11校,中紀4校,紀南3校であった。学校規模別には,13学級以上の大規模8校(うち中学校1),中規模2校,小規模9校(うち中学校2)であった。校区の地域環境としては,住宅市街地(都市的地域)3校,混住地(平地農業地域)9校,農山村(中山間農業地域)9校であった。校内の学校園・学級園だけの活動は6校(うち1校はバケツだけを使用)で,その他12校は校外に農地(うち5校は校内農地に加えて)を求めている。それらの面積は,果樹園をも学習活動の場に組み込んだ1校(11,629m2)とバケツ利用だけの1校を除くと,60〜2,550m2,平均517m2であり,児童・生徒一人当たり面積は0.18〜23m2,平均6.1m2であった。校外の農地(有料3,無料9)は地域またはJAの協力の賜物で,活動についても学校外からの援助・協力によるところが大であった。
新教育課程実施を目前にして,「総合的学習の時間」試行の仕上げともいえる今回は,近年の農的活動の位置付けであった環境教育,ふるさと・勤労体験・育てる楽しみ喜びといったこころの教育を含みつつ,数教科と関連付けた文字どおり総合的な学習に位置付けた活動が前面に出てきたことが第一の特徴である。第二に,作物の栽培・収穫体験だけでなく,地域の主要作目や農産加工を採り入れるように地域を学び,地域から学ぶ活動が多くなった。第三として販売・流通にまで(農業としては当然だが)大きく展開した学習活動が見られたことである。第四に,収穫物の調理,会食,加工・利用にも世話になった人々や高齢者とともに効果的に行われている。
多くの場合,担当教員を中心として委員会組織で年間計画をたてて実施しており,学校規模が大きくなると学年別活動の比重が高まるが,小規模では縦割り班(異年齢集団)による全校的活動が主流となっている。いずれも,生き生きと楽しみ学んでいる子どもの様子が記録写真(デジタル写真とCD化),ビデオや観察記録ノート,作文等でうかがえた。応募小学校15校・中学校3校では,発達段階に応じて,都市化,逆に過疎化など,変化しつつある地域の様々な社会・文化・自然環境に応じたバラエティーに富んだ農の教育がなされ,総合的学習,各教科学習,いのち・こころの学習,ふるさと学習,交流学習,地域連携に活用されている。
授賞校について
都市部住宅地の中にある30学級もの大規模校で,校内農地と校外近接農地(住民の菜園の一部借用)で栽培を取り入れた学習活動を行っている。中心は5学年の1学級が野菜を生産・販売する株式会社「野菜で元気」(お金部・生産部・販売部・宣伝部)を設立し,JA営農指導員に学び,地域の気候・土質と作りやすさから間引き菜,ラディッシュ,コマツナ,ホウレンソウ,ミズナの5種類を選定し,種まき・世話・収穫まですべてを自分たちで分担して栽培・観察を行っている。普通なら自分たちで食べるだけだが,複数の店舗調査によって値づけ・宣伝し,日曜参観日に試食とレシピを付けて販売まで(この日に間に合うよう栽培開始)している。現在はさらにもらい苗のタマネギに取り組んでいるほか,1,2学年生活科ではスイカ・サツマイモ,3,4年生ではフラワーロードつくり(ペットボトル利用の花鉢をフェンス面にたくさん下げる)と樹木の観察と,6学年を除いて全校的に学習としている。ただ育てて収穫する体験だけでは一貫した農業の学習ではなく,一歩進めて「働く」ことの真の喜び・苦労なども含めて,文字通り総合的な学習として「生きる力」を目標とした展開を図っていることが評価された。
今後の課題
選外となった応募校でも,ともにりっぱな学習活動であろうが,残念なことに応募書類では内容がよく読み取れない場合があり,また,教材・教育内容として作物とその栽培を十分にこなされていない,今一歩のユニークさ,あるいは,インパクトにやや欠ける学校があったのは惜しまれる。それらの活動概略をまず記し,ついで全体的な課題と要望をしておきたい。
5年生の社会科学習(日本の農業)と関連させた総合的な学習としてJAの資材提供・指導でバケツ稲作り―種もみの選別・種まき・刈取り・脱穀・籾すり・精米,試食,わら細工(リース・ぞうり)を行った。発表の時間を設け,学習のまとめを行った。
4学年までの分校児童が生活科・総合的学習・特別活動として,四季折々の野菜と花を無農薬栽培し,観察,絵,作文等の学習をしている。おやつ作りや焼きいも集会(世話になった人々へのプレゼント),おでんパーティ,家庭に持ち帰り収穫の喜びを味わっている。
5年生の社会科,総合的学習の並行体験実習として,野菜栽培もあるが,地域の水田での田植えに加えて,造成した小水田とバケツ栽培で籾播きから精米まで取り組み,成長・収量比較にも進めた。調理実習を兼ね,炊飯・弁当作り,収穫祭でおにぎりや五平餅などを作った。
1・2学年は生活科で野菜・草花栽培,5学年は総合的学習でイネ栽培(学級園のビニル水田+農家水田で体験),他の学年でも理科で栽培している。給食の食材,生活科の収穫祭,おにぎりの食事会のほか,花と収穫物を養護老人ホームへの慰問のボランティア活動に利用している。
広い隣接校外農地で全学年が「チャレンジ!サツマイモ作り」,1年生の生活科はトウモロコシ,5年生の総合的学習は梅収穫と梅干づくり,6年生の理科・社会科はジャガイモ栽培を行い,家庭料において調理している。地域の学校関係者が一同に会して「焼きいも大会」を実施した。
学校農園勤労体験活動をオープンスクールと総合的学習の時間に位置付け,農家の耕起畝立てまでとその後の技術指導で,4・5・6年生中心にスイートコーン・大根を栽培している。全学年で収穫し,切干大根も作った。地元関係者の調理指導と会食で交流している。
極めて小さな学校なので,交流学習として近隣の2つの小学校と共同でイネつくりを実施している。うるち米は調理実習,夏の親子キャンプで使用し,もち米はもちつき大会でよもぎもち,さとうもち等をつくり,保護者ほかと会食しているほか,しめ縄とぞうり作りもやっている。
3年生社会科地域産業ミカン学習.5年生稲作校内(バケツ)と校外田植え・収穫体験の総合的学習,6年生ウサギとニワトリ飼育,特殊学級菜園・花壇で野菜・草花に取り組んでいる。種子・飼料の提供,農作業体験と調査への農家や保護者の応援が深いつながりで得られている。
1年を通じて土に親しむことができる中庭「ふれあい農園」で,低学年は生活科で各種野菜・草花,中・高学年は特別活動,理科・環境学習,バケツ稲作を行っている。農家水田での田植え・稲刈りも行っている。生産物は給食に利用しており,品評会に参加するなど高校との交流もある。
校内学校農園が狭いのなら,広い校外農地を借用する,ゲストティーチャーを活用する。学校の意気込みと地域の支援(上秋津小学校農業体験運営委員会,延べ200名)はすごいものがある。全学年で上秋津タイム(総合的な学習)を活用し,地域の温州みかん・梅から各種野菜の栽培学習に取り組んでいる。さらに児童の主体的な活動を多くし,とくに,3・5学年では,地域の野菜博士を募集し,そこへ児童が教えてもらいに行くようにした。前年の最優秀校で継続・発展した最高水準の活動をしている。しかし,まことに申しわけないが,毎年同一校に最優秀賞というわけにいかず,基準とさせていただいた。
農業は,もともと生きものとこれを取り巻く自然に向い合い,頭脳と全身をもって働きかける総合的な知的集約産業,すなわち「脳業」であって,これほど総合的な学習の素材として最適なものはない。そして,「ものつくり」は農作,食べものつくりであって,人間の人間たる所以であり,すべての根源なのである。来年度からは「総合的学習の時間」本番。これによって,既存教科の時間数は減少するが,逆に真の学習のための時間的にも確保されたともいえる。作物とその栽培,あるいは家畜とその飼育を教科・学年での教材として明確に位置付けすること,さらに,教材としての分析と整理によって,総合的な学習として,文字通りすべての教科学習との有機的な相互のつながりのあるものを作っていっていただきたい。
また,農業は,適地・適時・適作であると同時に,生き物相手のフレキシブルなものなのである。安全で良いものを多く収穫することを目標とする。そのためには,作物と土壌をはじめ,栽培環境への働きかけ(技術)が不可欠であり,様々な工夫も必要である。あるものは何でも利用する,なければ,代わりを見つけるといった工夫とどうじに,なぜだろう,こうしたらどうだろう,どうなるだろう,といった疑問を大切にして,課題解決的あるいは仮説・実験研究的手法を基礎知識・技能と発達段階に応じてもっと採り入れ,学力につなげてほしい。
最優秀賞・優秀賞受賞校の実践は,先進事例である。情報の収集と発信をおおいに進めていただきたい。そして,それぞれ学校の特徴・特技を確立して,教職員全体,学校としての体系的な財産としてほしい。農の教育実践には地域の協力が欠かせない。依存ではなく,学校側の確固たる理念と主体性を持ち,実践力向上を目指す意気込みには地域は応えてくれる。
農の体験学習によって知ることができるものは,究極的には「いのち」・「こころ」ではないだろうか。牛のような大家畜でなくともヤギ・ヒツジなど中家畜飼育はすこぶる有効である。活用を図っていただきたい。食事の際の「いただきます」は,いのちをいただくのである。
食べものの安全性と生産過程の大切さについて,これほど痛感させられた年はなかろう。地球・世界レベルの環境・人口・食料等の諸問題解決が生活の中に凝縮されたようなものであった。食べもの供給を筆頭に多面的機能を有する農業・農山村は,子孫からの借り物で,残さなければならないものである。生きものを育てる「農の営みによる教育」に加えて,次世代の人材養成や地域活性化にも大きな役割を果たすために「わざ」を育てる「農の教育」としたいものである。
審査委員長 小林民憲(和歌山大学教授)