第10回2000(平成12)年度
和歌山県農業教育賞 “がんばれ,自然と地球人”
審査結果
最優秀賞 : 田辺市立上秋津小学校
優秀賞 : 和歌山市立城北小学校,すさみ町立見老津小学校
奨励賞 : 和歌山大学教育学部附属小学校,野上町立野上小学校柴目長谷分校,
湯浅町立田村小学校,白浜町立富田中学校
賞設定の意義と審査経過
前世紀から引きずっている環境・人口・食料等の諸問題解決の展望は,多面的機能を有する農業・農山村そして生きものを育てる「農の営み」によって得られる。それはまた,“いのちと心”,“生き方”,“生きる技と術”の教育の展開・定着によって見出されるものである。“和歌山県農業教育賞”は,10回目となった。この賞は,「農の営み」を学校教育の中に採り入れ,豊かな情操を育み,学習に大きな成果をあげている学校と子どもたちを称え,この成果を全県に広げていくために, JA和歌山中央会によって先駆的に設定されたものである。児童・生徒の農の体験的理解を通じて,地域の農業と社会に,ひいては地球規模の諸課題解決に長期的・間接的ではあるが,資することになろう。
審査は,まず応募書類によってしぼり,次いで現地審査を行って,授賞校を選定した。審査に当たっては,(1)学校教育の一環として継続的に取り上げられ,(2)明るく,元気よく,そして(3)ユニークな農体験実習を実施していることを基本にした。具体的には,学校規模や地域環境による条件を考慮し,@児童の参加状況,A取り組み体制,B教育課程での位置付け,C作目(家畜)の種類・数・栽培面積,D地域の特色の活用,E地域社会(行政やJA)との連携,F地域への波及効果,G地域・文化と学校とのかかわり方,H記録・表現方法などを審査の項目として総合的に判断した。審査対象が数量化し難いものであり,相対比較だけでなく,これまでの授賞校との比較対照も行った。また,小学校と中学校との多少の考慮を払いつつも敢えて区別をしなかった。さらに,再度の応募校のうち,過去の授賞校については,進展の程度を考慮して判断した。
いずれも一定水準以上で,選定に苦慮したが,最優秀賞1校,優秀賞2校,奨励賞4校を選定した。
審査講評
応募校全体について
応募は,小学校12校,中学校3校の計15校で,2市6町1村に渡り,紀北6校,中紀4校,紀南5校であった。学校規模別には,大規模2校(うち中学校1),中規模9校(うち中学校2),小規模4校であった。校区の地域環境としては,住宅市街地(都市的地域)5校,混住地(平地農業地域)3校,農山村(中山間農業地域)7校であった。校内の学校園・学級園だけの活動は7校(うち3校は膨大な数のプランターと鉢あるいはバケツを使用)で,ほか8校は校外に農地(うち4校は校外農地だけ)を求めている。それらの面積は,果樹を学習活動の対象とした応募校が3校あったことを反映して,48〜2029m2,平均401m2であり,児童・生徒一人当たり面積は0.1〜226m2,平均2.5m2であった。校外の農地は地域あるいは農協の協力によるものであるが,活動についても学校外からの援助・協力によって成り立っている。
近年の農的活動の位置付けは環境学習にあったが,今回は,文部省学習指導要領改訂の実施移行期として「総合的学習」が前面に出てきたことが第一の特徴である。第二に,地域の主要作目である果樹作を採り入れた活動,第三に,作物栽培から大きく展開したユニークな学習活動が見られたことである。もちろん,ふるさと学習,勤労体験学習そして教科の学習として栽培活動に取り組んでおり,収穫物を調理し,食べること,加工・利用も効果的に行われている。多くの場合,担当教員を中心として委員会組織で年間計画をたてて実施しており,学校規模が大きいと学年別活動の比重が高まるが,小規模になるほど縦割り班(異年齢集団)を構成した文字通りの全校的活動が主流となっている。いずれも,生き生きと楽しみ学んでいる子どもの様子が記録写真や観察記録ノート,作文等でうかがえた。応募小学校13校・中学校3校では,様々な自然環境のもと,都市化,逆に過疎化など変化しつつある地域の社会・文化・自然環境に応じたバラエティに富んだ農の教育がなされ,総合的学習,教科学習,いのち・こころ,ふるさと学習にと活用されている。また,これらの活動を通して地域との交流・連携もなされている。
授賞校について
完全な市街地の中の学校である。が,校庭には樹木も多くあり,学校園でミカン,サツマイモ,ミニトマト,ヘチマ,ケナフ,ジャガイモを学年毎に栽培している。その面積が狭い分,プランター385個(1.5個/人),鉢1,042個(4.3個/人)を使って26種もの花いっぱいの学校を楽しんでいる。残念ながらバケツ稲作は収穫皆無(鳥害?)であったが,25年続いている早朝掃除による落ち葉の堆肥つくりや,主として5年生による給食生ゴミでのぼかし肥料づくり,雛からのニワトリ飼育も併せて,いのち・心を育む農業教育の実践を行っている。保護者からの応援はもちろん,地域の年寄りとの交流で花苗・球根・挿し芽のプレゼントなど地域貢献にもなっており,農業体験学習を通じての龍神村の小学校との交流は9年続いている。全校ティームティーチングによる異年齢縦割り斑活動,園芸・飼育委員会活動,学年活動を各教科に活かすことも成功している。総合的な学習の時間への取り組み,農業共通体験活動を通じてほんとうに変わったのは教員かもしれないとのこと,子どもにとっては先生も環境の一つ,そのよい環境の中で育まれる子どもの将来は楽しみである。
今後の課題
選外となった過去の受賞校においては,@果実園の活用,農園・学校から出る「ごみ」を活用した発酵肥料を元肥・追肥として活用した栽培は,各学年の発達段階に即した年間計画を立て実施しており,継続した最高水準の活動をしている。最近の最優秀校なので,基準にさせていただいた。A7,8年前から縦割り斑活動で「花づくり」活動に取り入れ異年齢の交流を図っている。また花のコンクールや地域の公園にも展示している。仲間づくりやボランティア精神の育成とともに地域交流に役立っている。上位の賞にはあと一歩の工夫・展開がほしい。
他方,@5年生の社会科学習日本の農業と関連させて,総合的な学習の時間を活用して一人ひとり稲をポリバケツ栽培し,精米して食べ,わら細工も行った。学習のまとめとして,「お米のひみつをさぐろう」の発表の時間を設けた。A総合的な学習の時間に位置付け,定期的に学習を行うとともに品目が重複しないよう工夫して,全校縦割りグループで,サツマイモや草花等の栽培し,収穫物は給食,調理実習や収穫祭,年寄りとの交流学習にも活用している。B数年前より全校縦割り班に分け,学校裁量の時間で野菜づくりに取り組み,育てる楽しさ,難しさ,収穫の喜び等を学習しており,収穫物は,収穫祭や給食に活用するとともに家に持ち帰るほか,地域交流会,老人ホームへの慰問交流に活用している。C1年生はサツマイモ,2年生は米づくり,3年生以上はトウモロコシ,ケナフ,花等を栽培し全校的な活動として取り組んでおり,「生きる力と人間としての知恵」をつけるだけでなく,子どもを通して保護者にも自信を与えている。D「土」に親しみ,自然からの恵みを享受する栽培は人間形成上大切なものとの観点で,技術科栽培の分野で3年生がサツマイモの栽培に取り組み,収穫後は給食や家庭科で調理実習に取り入れてきた。E全校生徒による梅・みかんを中心とする農事勤労体験学習を17年前から進路学習の一環として取り組んできたおり,農業を地域の基盤となる産業,また生活を支える職業として,また働くことの厳しさや喜びを知り,考える機会としてきた。
これら初応募・未受賞校でも,ともに優れた活動であるが,残念なことに応募書類では内容がよく見えない場合があり,また,今一歩のユニークさ,インパクトにやや欠ける学校があったのは惜しまれる。
新教育課程への移行過程であるが,時間的にも確保されたともいえよう。作物とその栽培,あるいは家畜とその飼育の,教科・学年での教材としての位置付けを明確にすること,さらに,教材としての分析と整理によって,総合的学習として文字通り,すべての教科学習との有機的な相互のつながりのあるものを作っていってほしい。農業はもともと総合的な知的集約産業すなわち“脳業“であって,これほど総合的学習の素材として最適なものはないのだから。そして,”ものつくり“は農作,食べものつくりであって,人間の人間たる所以であり,すべての根源なのだから。
また,同じつくるなら,良いものを多く収穫することを目標とする。そのために,作物と土壌をはじめ栽培環境への働きかけ(技術)が不可欠である。様々な工夫も必要である。あるものは何でも利用する,なければ,代わりを見つけるといった工夫,かつての標語「足らぬ,足らぬは,工夫が足らぬ」である。さらに,こうしたらどうだろう,どうなるだろう,といった疑問を大切にして,仮説・実験研究的手法ももっと採り入れてほしい。農業というのは適地・適時・適作であると同時に生き物相手のフレキシブルなものなのだから。
さらに,遠隔地であっても学校間の交流が情報技術の進歩できわめて容易になった今日,先進事例に大いに学ぶ(まねる)ことから始めて,一定水準に達したあとは,各校の特徴・特技を確立してほしい。そこには地域の協力が欠かせない。学校の確固たる理念と主体性をもち,実践力向上を目指す意気込みには,地域は応えてくれる。そして,教員・職員全体,学校としての体系的な財産としてほしい。
生きものと取り巻く自然に向い合い頭脳と全身をもって働きかける農の体験・学習によって知ることができるものは,究極的には「いのち」ではないだろうか。この「農による教育」に加えて,未来を切り拓く人材養成や地域活性化にも大きな役割を果たすため,「こころ」とともに担う「わざ」を育てる教育としたいものである。
審査委員長 小林民憲(和歌山大学教授)